すがやみつるのデジタルマンガことはじめ(3-1)

ファクシミリがやってきた

 私の仕事場にファクシミリ(FAX)が導入されたのは、1983年のことでした(確か……)。自動車のオモチャもデザインしている工業デザイナーと知り合い、仕事場を見学させてもらったら、そこにFAXがあったのです。設計図のやり取りにとても便利とのことでした。

(リースで導入したFAXマシン)

 FAXを見せてもらったとたんに、ひらめきました。マンガの原稿が送れるのではないか――とです。

 工業デザイナーさんに紹介してもらい、仕事場にFAXを入れることになりました。当時のFAXは、業務用のみで、買えば数十万円だとか。リース契約を結ぶことにしたのですが、個人での契約はダメで、設立したばかりの会社で法人契約を結ぶことになりました。

 リース契約には会社経営者の資産調べまであったりで、FAXは高級&高額の事務機器でした。

 FAXが事務所に入ったのはいいのですが、ふたつほど問題がありました。ひとつは、FAXでやりとりする相手がいないこと。もうひとつは、工業デザイナーさんのところで見せてもらったときはキレイに見えたのに、実際に試してみると解像度は思ったほどではなく(G3規格で200dpi)、細い線の掛け合わせやスクリーントーンを多用するストーリーマンガの原稿を送るのは、ちょっと無理そうな感じでした。

 ――マンガの原稿を送るのは無理でも、ネーム(絵コンテ)なら行けるのではないか? 

 そう考えて『ゲームセンターあらし』を連載していた「コロコロコミック」編集部に問い合わせてみると、小学館にも宣伝部に1台だけFAXが入っているとのこと。そこで試しに宣伝部にネームを送らせていただきました。45ページくらいあったのではないかと思います。

 当時のマンガ月産量は200~300ページ。学年誌、児童誌を中心にした月刊誌の連載が多く、描き下ろしの単行本も手がけていました。

 発売日が近い雑誌が多いため、どうしても締切が重なってしまいます。そこで締切を分散させるため、打ち合わせを前倒しにさせてほしいと編集者に依頼することもたびたびでした。

 編集者も忙しいので、打ち合わせのタイミングを見つけるのが大変です。だからこそFAXでネームを送り、それを見ながら電話で打ち合わせすれば、時間のムダにならずにすむのでは……と考えたわけです。

 小学館宣伝部にFAXを送ると、すぐに編集者から電話がありました。

「すがやさん。たしかにFAXは便利だけど、FAXで送られてきたネームじゃ熱気が伝わってこないよ。マンガってのは、マンガ家と編集者が面と向かって口角泡を飛ばしながら打ち合わせをするから、熱気のあるマンガが生まれると思うんだよね。だからFAXでネームを送るのは、これきりにしてくれないかな」

 このようなことを言われてしまい、FAXを使ったネームの打ち合わせは、1回限りとなったのでした。

 そう、マンガに大事なのは「熱気」です。

 とくに「コロコロコミック」のような子ども向けマンガでは、「熱気は技術を超越する」こともしばしばでした。めざすは「うまいマンガ」ではなく「熱いマンガ」でなくてはなりません。

 というわけでFAXによるネーム送信は1回限りとなったのですが、1ヶ月くらいが過ぎた頃だったでしょうか。「コロコロコミック」に連載しているマンガ家さんから電話がかかってきました。電話の内容は、

「すがやさん、FAXの入れ方を教えてくれませんか?」

 というものでした。